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大阪地方裁判所 昭和43年(行ウ)687号 判決 1975年2月25日

大阪市阿倍野区阪南町二丁目五番二四号

原告

林貞雄

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

石橋一晁

川浪満和

服部素明

柴山正美

香川公一

大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号

被告

阿倍野税務署長

佐藤和夫

大阪市東区大手前之町

被告

大阪国税局長

山内宏

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右被告国指定代理人大蔵事務官

松原二郎

右被告三名訴訟代理人弁護士

田浦清

同指定代理人検事

岡準三

同訟務専門職

中山昭造

同大蔵事務官

吉田周一

安久武志

西本秋男

右当事者間の更正処分取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告阿倍野税務署長が昭和四一年七月二五日なした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を九二万五三〇〇円とする更正処分のうち、三六万七五〇〇円を超える部分は、これを取消す。

2  被告大阪国税局長が昭和四三年四月一一日前記更正処分に対する原告の審査請求を棄却した裁決を取消す

3  被告国は原告に対し、五万円およびこれに対する昭和四三年七月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに3につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文向旨の判決並びに請求の趣旨3について仮執行の宣言が附される場合には、担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は縫製業を営む者であって、大阪市阿倍野区内の零細商工業者が自らの生活と営業を守ることを目的として組織した阿倍野商工連合会並びに大阪府下の各商工会の結集した大阪商工団体連合会の会員であるが昭和四一年三月一五日被告阿倍野税務署長(以下、被告署長という)に対し昭和四〇年分所得税につき総所得金額を三六万七五〇〇円、所得税額を〇円として白色申告書による確定申告をしたところ、被告署長は昭和四一年七月二五日総所得金額を九二万五三〇〇円、所得税額を四万七七〇〇円とする更正並びに過少申告加算税二三五〇円を賦課する決定をなし、同年七月二六日その旨原告に通知した。

2  そこで、原告は同年八月二六日、右処分につき被告署長に対し異議申立てをしたところ、同署長は同年一〇月一二日これを棄却するとの決定をなし、同月二〇日原告に通知したので、原告は同年一一月一八日、被告大阪国税局長(以下、被告局長という)に対し審査請求をしたが、同局長は昭和四三年四月一一日これを棄却するとの裁決をなし、同月二六日その裁決謄本を原告に送達した。

3  しかし、本件更正処分には次の瑕疵があり、取消されるべきである。

(一) 被告署長の更正通知書には、理由として、国税通則法第二四条の規定により更正する、加算税については同法第六五条の規定により賦課決定すると記載されているのみで、その後の異議申立てに対する決定並びに被告局長の審査請求に対する裁決によっても、更正の理由は充分明らかでなく、これは不服審査制度における争点主義に違反している。

(二) 国税通則法第二四条によると、更正処分は調査に基づきなされるべきものであり、かつ右調査は納税者の生活と営業を不当に妨害することのない適正なものであることを要求されるところ、被告署長は原告に対し不当な調査をなし、かかる不当な調査に基づいて本件更正処分をなした。

(三) 更正処分は適正かつ平等になされなければならないのに、被告署長は、原告が商工会々員であるが故に、他の納税者とは差別的にかつ商工会の弱体化を企図して本件更正処分をなした。

(四) 原告の本件係争年分の総所得金額は三六万七〇〇〇円であり、本件更正処分は原告の所得を過大に認定した点で違法である。

4  被告局長は、被告国の公権力の行使に当る公務員であるが、原告の前記審査請求に対する審査を行うについて、通常六か月、最大限度一年で裁決をなすべきであったにかかわらず、故意に一年五か月間も放置してこれを遷延させ、速やかな行政救済をうけるべき原告の権利を侵害し、金銭的に評価すれば五万円を下らない無形的損害を与えた。

5  よって原告は、被告署長に対して本件更正処分の取消しを、被告局長に対して本件裁決の取消しを、被告国に対して五万円とこれに対する不法行為の日の後である昭和四三年七月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  請求原因1のうち原告が阿倍野商工連合会大阪商工団体連合会々員であることは不知、その余は認める。

2  同2は認める。

3  同3については、(一)のうち本件更正通知書に原告主張のとおりの理由を記載したことは認めるが、その余は後に述べるとおりである。

4  同4のうち、被告局長が被告国の公務員であり、原告の審査請求に対して約一年五か月後これを棄却するとの裁決をなしたことは認めるが、その余は否認する。

三  被告らの主張

1  所得税法第一五五条第二項により更正の理由附記が要求されているのは、青色申告書の提出承認をうけている者の青色申告に係る年分の所得について更正処分をなす場合に限る。右法条は、青色申告書の提出承認をうけている者に対し、帳簿書類を備付けてこれに所得金額に係る取引を記録し、かつ、その帳簿書類を保存し、更に青色申告書に損益計算書その他所得金額または純損失の金額の計算に関する明細書を添付させるという厳格な義務を課している代償として、特に法律によって与えられている租税優遇措置の一つである。右のような義務が何ら課せられていない原告のごときいわゆる白色申告者の場合まで、しかも法律によって理由附記が要求されていないにもかかわらず、その所得について更正処分をなした際に更正通知書に更正理由が記載されなければならないとする法的根拠はない。

2  被告署長は、原告の本件係争年分所得の調査のため部下職員を原告宅に臨場させたのであるが、原告は、帳簿は無い旨申て、また原始記録の提示についてもこれを拒否した。そこで被告署長は、原告の取引先および取引銀行等の調査結果を基礎に、その所得金額を計算したところ、原告の申告額と相違したので、その調査したところによって、本件更正処分およびこれに附帯して過少申告加算税賦課決定処分をなしたのである。

したがって、被告署長が不当な調査をした事実はなく、また原告が商工会々員であるからといって差別したり、商工会の弱体化を企図して調査したこともない

3  原告の本件係争年分の総所得金額およびその内訳は次のとおりであり、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。

(一) 収入金額 四八〇万八九八七円

(収入先)

木村喜代蔵 二九三万六〇〇〇円

近畿布帛株式会社 五九万八〇二五円

有限会社ベビー商会 一二七万四九六二円

(二) 雑収入金額 五二〇〇円

(三) 必要経費 三〇九万一五九七円

売上原価 六四万四五八六円

期首在庫 二五万円

仕入金額 五二万四五八六円

期末在庫 一三万円

公租公課 一万三八〇〇円

荷造運賃 五〇〇〇円

水道光熱費 四万六六〇〇円

旅費通信費 四万二〇〇〇円

接待交際費 三万五〇〇〇円

火災保険料 六〇〇〇円

修繕費 二万三〇〇〇円

消耗品費 一四万円

福利厚生費 一〇万六〇〇〇円

雑費 一万六四〇〇円

減価償却費(建物以外) 三万円

雇人費 一〇六万円

地代家賃 五万円

外注工賃 七六万〇七一一円

事業専従者控除額 一一万二五〇〇円

(四) 総所得金額 一七二万二五九〇円

四  被告らの主張に対する認否

被告らの主張3のうち、収入金額は否認する。そのうち、木村喜代蔵からの収入金額は一七二万一二六九円である。必要経費は、売上原価を除き、認める。

第三証拠

一  原告

乙第二号証の一、二の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告ら

1  乙第一号証、第二、第三号の証の各一、二、第四号証を提出。

2  証人小幡孝三の証言を援用。

理由

一  請求原因1のうち原告が阿倍野商工連合会および大阪商工団体連合会の会員である点を除くその余の事実並びに2の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで本件更正処分の手続上の瑕疵につき原告の指摘する点を順次検討する。

1  本件更正通知書には、理由として、国税通則法第二四条の規定により更正する、加算税については同法第六五条の規定により賦課決定するとのみ記載されていたことおよび、原告が白色申告書によって本件係争年分の確定申告をしたことは当事者間に争いがない。

ところで、国税通則法第二八条第二項は、更正により課税標準および税額等がいかに変動したかを明瞭にするため、更正通知書に同項各号所定の事項を記載すべきものとし、青色申告に対する更正については、これに加えて所得税法第一五五条第二項が、青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には、その更正の理由をも附記すべきものとしているが、白色申告については、納税者に青色申告者のごとく記帳およびその保存を義務づけていないと同時に、これに対する更正の場合に右のような理由附記をなすべき旨の規定もないから、更正の理由を知りうることが納税者にとって望ましいことであるとしても、その記載がないことをもって当該更正処分を違法とすることはできない。

2  被告署長が不当な調査をなし、また商工会の弱体化を企図して差別的に本件更正をなしたとの点については、本件全証拠によっても、これを窺うことができない。

三  次に、原告の本件係争年分の総所得金額につき判断する

1  証人小幡孝三の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証、第三号証の一、第四号証および右証言によれば、原告は、本件係争年度において、乳幼児用の前垂れの縫製加工により、木村喜代蔵から二九三万六〇〇〇円、近畿布帛株式会社から五九万八〇二五円、有限会社ベビー商会から一二七万四九六二円、合計四八〇万八九八七円の加工賃の支払をうけていたことが認められ、成立に争いのない乙第二号証の一、二のうち右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。すると、原告は同年中に少なくとも右金額の売上収入を得ていたものと認められる。

2  前掲乙第二号証の一によれば、原告は、本件係争年度において五二〇〇円の雑収入を得たことが認められる。

3  必要経費は、売上原価を除き、当事者間に争いがなく前掲乙第二号証の一、二によれば、原告は本件係争年度の売上原価として六四万四五八六円を要したことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。すると、必要経費の合計は三〇九万一五九七円となる。

4  よって、前記売上収入金額および雑収入金額の合計から右必要経費を控除すれば、原告の本件係争年分の総所得金額は一七二万二五九〇円となる。

四  本件裁決の瑕疵については、原告は何ら主張しないので被告局長に対する請求は失当としてこれを棄却する外はない。

五  次に、被告国に対する請求につき検討する。

被告局長が被告国の公務員であり、原告の審査請求に対して、約一年五か月後にこれを棄却するとの裁決をなしたことは当事者間に争いがない。

ところで、行政不服審査法第一条第一項は、行政不服審査制度が迅速な手続により国民の権利利益の救済を図ることを目的とするものであることを明らかにしているが、審査請求がなされてから裁決までに一年五か月を要したいというだけで、直ちに被告局長の所為が同条に違反し、違法であると速断することはできない。被告局長において、既に裁決をなし得る状況にあるのにことさら裁決を遅らせたりあるいは、いたずらに事件の処理を放置し、そのため前記制度の趣旨が損われる程度に著しく裁決の遅延をみるような場合には、被告局長の所為は行政不服審査制度を設けた趣旨に反するものとして違法となることがあると解すべきであるけれども、本件全証拠によってもそのような事実は認めがたいから被告局長の所為を違法とすることはできない。

六  以上の事実によれば、原告の本訴請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川恭 裁判官 鴨井孝之 裁判官 大宮禎男)

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